金妍児(韓国)・フィギュア女子
2010年1月12日
■鉄仮面、もういらない
2006~07年シーズンにシニアデビューしてから、16戦12勝。表彰台は逃したことがない。昨年12月のグランプリファイナル(東京)の優勝を含め、今季も3戦全勝。19歳の世界女王、金妍児(キム・ヨナ)は初めての五輪へ、金メダルの「大本命」として臨む。
06年世界ジュニア選手権(スロベニア)で、浅田真央を破って頂点に立った。当時の印象はニコリとも笑わない「鉄仮面」をかぶったような少女。リンクでは別人のような演技ができるのに……。
それが今、リンクの外でも自然体で自分を表現できる。メディアの突拍子もない質問にも、笑って返すことができる。五輪までの4年。スタッフに恵まれたことが、彼女の幸福の始まりだったろう。
メーンコーチは、84年サラエボ、88年カルガリーの両五輪で銀メダルを獲得したカナダのブライアン・オーサー氏。現役時代に「ミスター・トリプルアクセル(3回転半)」と呼ばれたオーサー氏の存在は何より大きい。
鉄仮面の理由――。それはトリプルアクセルへのコンプレックスにあった。もともとジャンプが得意で、難しい技をどんどん跳びたい選手。だが、このジャンプだけは習得できなかった。何度も練習を試みてけがを重ねた。オーサー氏の指導を受ければ跳べるようになるのではないか。2度断られ、「OK」をもらった。
だが、そのオーサー氏の助言は「トリプルアクセルを省くこと」。金妍児に言い聞かせた。「トータルパッケージだ。必要なジャンプはすべて備えているし、優れた表現力がある。試合は大技を見せるためのものではない。スポーツと芸術を兼ね備えたプログラムを見せるのがフィギュア。けがのリスクが高いトリプルアクセルがなくても、優勝はできる」。その戦略がはまった。鉄仮面もいつの間にか、消えた。
「チーム・ヨナ」にはカナダ人の豪華な顔ぶれがそろう。技術面では、オーサー氏以外に88年カルガリー五輪銅メダルの元アイスダンス選手、トレーシー・ウィルソン氏がサポート。表現面では、安藤美姫ら日本選手も数多く手がけた経験のある振付師のデビッド・ウィルソン氏が教える。専属トレーナーも、拠点のトロントでは一緒だ。
韓国では「ヨナ・グッズ」が次々と発売され、注目を集める。「今季は世界記録(フランス杯の210.03点)を出した一方で、最悪の演技もあった。五輪を前にいろいろな経験をした。何よりも健康な体でバンクーバーに臨みたい」と金妍児。何色のメダルをつかむか。(坂上武司)
◇
Kim Yuna 04~05年シーズンのジュニアGPファイナル2位で、韓国フィギュア界で初の国際スケート連盟主催の主要大会メダリストに。09年世界選手権で初優勝。京畿道富川市生まれ。高麗大1年。164センチ、47キロ。19歳。
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